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2006年11月26日 (日)

小説 新昆類 (19) 【第1回日経小説大賞第1次予選落選】

 二十世紀最後の十年間が九十年代だった。これまで世界というイメージはどこか奇跡
のようにおのれを救ってくれる存在のように思えてきた。第三世界などはもはや存在しな
い。存在するのは、限界・限定・死・閉ざされた地球上に表出するありとあらゆる万物・
万人の表層表出だ。世界のイメージとは、ユダヤ教的世界の旧約聖書、キリスト教世界の
新約聖書、イスラム教的世界のコーラン、仏教的世界の仏典、そしてマルクス主義的世界
の共産党宣言、ロシアマルクス主義世界のインターナショナル、中国マルクス主義世界の
第三世界論(林彪)・ファノン「地に呪われた者」等による帝国主義世界に対する告発の
書によって生成してきた。すでにロシアマルクス主義のインターナショナルと中国マルク
ス主義の第三世界論は消えている。東欧・ソ連邦の自壊によって、第三世界はバラバラと
され、G7・国連安保理を中心とした帝国主義世界システムによって封じ込め各個撃破さ
れているのが今日の表層として進行している。

 それが神学としてのユダヤ教・キリスト教・イスラム教であれ、思想の武器としてのマ
ルクス主義方法であれ、民衆のイメージは世界システムとの衝突によって、内部に形成さ
れてきた。抑圧者は抑圧者の世界イメージをもって反乱者を撃破せんとする。それらが世
界イメージの対決として人間の交通関係の表層に出来事としてあらわれる。
 EC統合を起因としたブロック経済の闘争と、東欧・ソ連の労働者国家の解体と市場経
済の混乱、国連安保理による世界システムに反抗するものへのみせしめ的各個撃破戦略。
ユーラシア大陸・中央アジアの表出。旧ユーゴスラビア民族内戦。旧ソ連民族内戦。イギ
リスにおける宗教戦争と独立運動の表出。イラク・トルコ・イランにまたがるクルド民族
解放闘争の表出。チベットの局地紛争。ペルーの内戦。これら世界システム経済のブロッ
ク化と宗教戦争もからんだ民族戦争は、近代システムとしての「国民国家」形成以来、世
界イメージとしての外部も内部も解体されたことによって、すべてがありとあらゆるもの
が、近代的枠組みを突き破り、あらたなる中世の乱世に向けて突入している。
 世界の外部が解体され死臭をかぎとったのであれば、もはや私の世界・私の内部・私の
深層などは一度崩壊をとげる。乱世の時代においては、私の内部は他者との交通関係をめ
ざし、表現することによってのみ生き延びられる。なにも表現しない私の内部などは、も
はや死体そのもの。もはや外部としての世界も内部としての世界も存在しない。第一自然
の死とともに世界イメージはみごとに死んだ。

 万人の万人よる闘争。たしか哲学者ロックはこう物語る。アングロサクソン・一万年の
問いは、こうして二十世紀最後の十年間を規定する。あらたなる中世と乱世の地球史に
万人の闘争が参入する。日本語によって他者をごまかし、いつのまにか世界市場を占有し
てきた日本システムは、この万人の闘争・あらたなる中世と乱世の前に、戦略的無準備性
をさらけだし、いまや朝鮮戦争以来のシステムの鉄筋は折れ、コンクリートにはひびが入
りきしみ音をうなりながら自壊しようとしている。

 「歴史の終わり」とあなたが言うように、イデオロギーは終焉をとげたのではない。死
んだのは近代「国民国家」形成以来の世界イメージ。資本主義は外部という敵なしに内部
を形づくることはできない。資本主義の内部こそ国内市場としての「国民国家」である。
「国民国家」を基盤に資本主義は世界市場に挑戦する。その場合、外部とはまだ開発され
ていない領域である。未踏の流域といってよい。さらにはシステムが異質なおのれをおび
やかす存在としての外部、つまり敵が必要となる。敵が存在しなければ資本主義の内部は、
不合理・非理性的な共食いをはじめる。数の獣の手にあけわたすことになる。

 市場の見えざる神の手とは、つまり理性のことであるが、この理性は「国民国家」を基
盤にした動物的本能の自己遺伝子と模倣子のことである。資本主義の外部の敵として労働
者国家群は存在した。国内の敵とは資本主義打倒をめざす革命党派・労働運動・企業を告
発する住民運動・国家と対決する運動の存在によって、はじめて資本主義の理性は市場の
見えざる神として自己を保守できる。

 資本主義システムの成長と発展のためには、社会主義国家という敵・未踏の領域と異質
なシステムとしての敵がどうしても必要であり、資本主義とは敵なしには自己運動が回転
しない。資本主義とは物質が神である物神による自己運動だからである。おのれの物神シ
ステムをくつがえすイデオロギーと革命勢力が存在してこそ、「国民国家」資本主義の内
部は自然生成できる。

 外部としての敵の存在によって資本主義システム成員たちは団結できるし、世界市場に
生成する世界企業・多国籍企業も市場を占有するという新植民地収奪を可能とする。こう
して社会主義なき以後の資本主義は、あらたに敵をシステム設定する。こうして宗教イデ
オロギーと民族イデオロギーが浮上する。資本主義の最終とは個人が国家の敵として設定
されるはずである。たしか中世には暇人を興奮させるための「魔女狩り」というゲームが
あった。宗教戦争として。

 やはり資本主義上の映像と表層・最後の人間とは、中世から飛び出す。資本主義の模倣
子は過去を未踏の領域として触媒を延ばした。デジタルワールドの恐竜時代は幕をあける。
興奮と幻滅このゲームこそ、資本主義の動物的本性である。

 資本主義とは原理である。ゆえに原理なき場所に資本主義は成立できない。ドイツ観念
哲学の引用者であるあなたは、共産主義が終焉し自由と民主主義の市場経済が勝利し、イ
デオロギーの闘争としてあった歴史は終えたと、高らかに宣言した。ヨーロッパ北方民族
神学としてあるヘーゲルの閉じられた円環にまいもどり。あなたは、いささかも九十年代
を予感させる最後の人間を説明しなかった。

 人間の動物本能は洞察し表象する、そして無意味なものに意味をあたえ、世界をつくる、
人間は前世代の到達点から出発する、絶えずあたらしい更新から人間は先行する、これが
人間の存在様式である。ゆえに過去との対話は重要となる。

 人間とは出来事を発生させる社会的動物である。出来事は不断に更新される。社会は肉
体である。体は頭脳より先行する。ゆえに社会の出来事は、人間のイメージを不断に超え
ていく。なぜなら、あらかじめ、人間の頭脳はブレーキが資本主義によってかけられてい
るから。資本主義は、なんとか人間を商品にするためやっきになっている。物神だからで
ある。学校とは賃金労働者を規格生産するための工場である。そしてまた資本主義を洞察
する人間の表象行為も工場である。世界はふたつの工場による熾烈なイデオロギー競争。
 規格化された日本の多くの人々は個人としての思想が問われたことがない。ゆえに論争
はできない。つまり個人としての綱領が不在なのである。商品への同一化これが人間的内
容を喪失した日本の未来社会である。重心なき。全的滅亡は近い。しかし世界はイデオロ
ギーの力によって、かろうじて成立している。世界をつくる人間は同時に世界からも不断
に問題解決能力をめぐって問われているから。冷戦構造を利用しうまく成金になった日本
はゆえにイデオロギーをおそれている。かれらの価値観は生活向上のために金だけである
と、世界から認識されているから、その洞察をおそれている。つまり日本は個人と人間存
在様式をおそれている。世界をおそれている。自己がうしろめたいからである。ゆえにU
SAの精神奴隷となるしか世界への道はないのである。人間存在様式からはずれた日本は
ゆえに世界から孤立する。彼らの最後の人間とはやはり天皇制に帰還するだろう。あの草
原と丘のふるさとの輝き、白い馬の琴線かなでる子宮へと。

 あなたがその言説、ヘーゲル世界精神である自己絶対化がよみがえる。商品は自己完結
しているがゆえに、商品となった市民は自己中心となる。こうして都市に自己中心型人間
は大量生産された商品となってあらわれる。そのイデオロギーは、すでに破綻した効率な
る近代合理主義である。かれらは無意味なものを嫌悪する。自己拡張にとっての意味のみ
を求めているから共有をしならい。しかし資本主義の私有は自壊をとげようとしている。
世界は私有から共有へ転回した。資本主義の自己遺伝子と模倣子は社会主義という敵を喪
失たことにより、デジタルワールドへと先行した。私有ではなく共有をめざすものこそが、
資本として成立できる逆転が開始された。近代とは私的所有の世紀であった。私的所有制
度に基盤をもって資本主義は物神の自己運動を展開してきた。資本主義の自己遺伝子と模
倣子は更新しながら自己運動する半永久革命物神である。ゆえに私有をめざすふるい近代
的合理主義者は、現在の資本主義によって打倒される。こうしてマルクスはデジタルワー
ルドにおいて復活する。終焉したのはマルクス経済ではなく近代経済であることが立ち上
がるだろう。政治においても六〇年安保から四十年間日本国家権力と世界の更新をめぐり、
ソスト書き換えで熾烈に記憶装置の内部でたたかってきた革命的党派がいよいよ本性をみ
せるだろう。誰がシステム設定するのか? 政治さえも私有から共有へ移動している。そ
の意味で湾岸戦争の英雄政権であるブッシュ二世は、二十一世紀ゼロ年代に適用できない
であろう。ブッシュ二世もやはり羊たちの沈黙その犠牲者となるのだろうか? 死神はU
SA最後の人間を発生させる。出来事の特異発生こそが進化論だった。





【第1回日本経済新聞小説大賞(2006年度)第1次予選落選】

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佐藤 泰正
文学における表層と深層―梅光女学院大学公開講座
柴田 久, 斎藤 潮, 土肥 真人, 永橋 為介
環境と都市のデザイン―表層を超える試み・参加と景観の交点から
リヒャルト ディカウ, ヘルムート ザオラー, Richard Dikau, Helmut Saurer, 小口 高, 小口 千明, 小松 安希, 佐藤 一幸
GISと地球表層環境
吉田 忠
全集世界の食料世界の農村 (22)
大嶋 仁
表層意識の都―パリ1991‐1995
三重野 卓
「生活の質」の意味―成熟社会、その表層と深層へ
勘米良 亀齢, 鎮西 清高, 水谷 伸治郎
地球表層の物質と環境
森村 誠一
最後の特攻―人間の剣 昭和動乱編〈2〉
シルヴィー ジョドー, Sylvie Jaudeau, 金井 裕
シオラン―あるいは最後の人間
クロード アヴリーヌ, Claude Aveline, 河盛 好蔵
人間最後の言葉
バルザック, 鹿島 茂, 大矢 タカヤス, 山田 登世子, Balzac, 飯島 耕一
娼婦の栄光と悲惨―悪党ヴォートラン最後の変身〈上〉
よみうりテレビワンダーゾーン
ワンダーゾーン―人類最後の神秘 人間の謎を追う
水口 康成
バルカンに生きる―旧ユーゴ内戦の記録 ’91‐’96
ドラガナ ポポヴィッチ, 北嶋 貴美子, ダニサ マルコヴィッチ, Dragana Popovic, Danica Jankovic Markovic
ユーゴ内戦後の女たち―その闘いと学び
月村 太郎
ユーゴ内戦―政治リーダーと民族主義
シェリ フィンク, Sheri Fink, 中谷 和男
手術の前に死んでくれたら―ボスニア戦争病院36カ月の記録
井上 清
日本帝国主義の形成
J.‐P. サルトル, Jean‐Paul Sartre, 多田 道太郎, 鈴木 道彦, 浦野 衣子, 渡辺 淳, 海老坂 武, 加藤 晴久
植民地の問題
山本 有造
帝国の研究―原理・類型・関係
朴 得俊, 梁 相鎮
日本帝国主義の朝鮮侵略史(1868‐1905)―征韓論台頭から乙巳五条約(保護条約)捏造まで
金 洛年
日本帝国主義下の朝鮮経済
宮本 陽一郎
モダンの黄昏―帝国主義の改体とポストモダニズムの生成
幸徳 秋水, 山泉 進
帝国主義
ジョン トムリンソン, John Tomlinson, 片岡 信
グローバリゼーション―文化帝国主義を超えて
J.M. ロバーツ, J.M. Roberts, 東 真理子, 福井 憲彦
図説 世界の歴史〈8〉帝国の時代
ドミニク リーベン, Dominic Lieven, 松井 秀和, 袴田 茂樹
帝国の興亡〈上〉―グローバルにみたパワーと帝国
ジョン トムリンソン, John Tomlinson, 片岡 信
文化帝国主義
エドワード・W. サイード, Edward W. Said, 大橋 洋一
文化と帝国主義〈1〉
エドワード・W. サイード, Edward W. Said, 大橋 洋一
文化と帝国主義〈2〉
スティーブン・ハウ, 見市 雅俊
帝国
坂本 雅子
財閥と帝国主義―三井物産と中国
田中 宇
アメリカ「超帝国主義」の正体
P.J. ケイン, A.G. ホプキンズ, Peter Joseph Cain, Antony Gerald Hopkins, 木畑 洋一, 旦 祐介
ジェントルマン資本主義の帝国〈2〉
高橋 章
アメリカ帝国主義成立史の研究
レオ パニッチ, サム ギンディン, Leo Panitch, Sam Gindin, 渡辺 雅男, 小倉 将志郎
アメリカ帝国主義と金融
レオ パニッチ, サム ギンディン, Leo Panitch, Sam Gindin, 渡辺 雅男
アメリカ帝国主義とはなにか

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