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2006年11月26日 (日)

小説 新昆類 (18) 【第1回日経小説大賞第1次予選落選】

 自己と他者をだます、おどろくべき能力を持った機略と陰謀と狡猾にとんだ動物的本能
である。関係を利用することをもって生き延びる者は、おのれの貌をしらなければ他者も
しらない。人間関係が恐ろしいものであるように、国家と国家の関係も恐ろしいのである。

 天皇を頂点にとした大日本帝国の軍事戦略は東アジア全体に戦線をのばす。その結果、
植民地においては民族解放闘争のゲリラ・パルチザン戦争に悩まされ、中国戦線では毛沢
東の持久戦争によって、広大な中国のふところ深くひきづられ、伸びきった戦線はズタズ
タに切断され敗北する。そして東南アジア戦線においては、USA海軍によって、まず海
軍が壊滅させられ、島・陸地の陣地はひとつひとつ戦略的に奪還され、ついに海軍と陸軍
は日本列島まで後退させられ封じこめられていく。アングロサクソンの軍隊はドイツ軍を
壊滅させたヨーロッパ戦線においてもそうであるが、敵の戦略的陣地をひとつひとつ徹底
的に容赦なく壊滅撃破し、一歩一歩勝利を積み重ねていくのである。その勝利への執念と
リアリズムこそ、おそれるべきである。中国戦線の日本軍兵士は生き延び本土に帰れたが、
東南アジア戦線の日本軍兵士は海と陸において、九十%が戦死した。オキナワ戦の実態を
みても、アングロサクソンの軍隊とは封じ込めによる各個撃破戦略である。本土決戦を経
験しなかった日本は、おそるべき世界史と他者を発見できなかった。

 ニューヨーク株価一九二〇年代とプラザ合意・八五年九月主要五カ国蔵相・中央銀行総
裁会議・G5によるドル高是正の合意。各国の協調介入の結果、ドル相場が急落し、円高
不況の懸念から日銀は公正歩合を再三引き下げた。長期の低金利でだぶついた資金が株や
土地投機に大量に流れ込み、バブルを形成した、紙幣印刷機経済である。円は紙となって
空から落ちてきた。

 レーガノミックスと呼ばれたレーガン経済政策は、高金利設定でドル相場をあげていく
金融ゲーム政策であり、これと連動したのがサッチャーと中曽根である。列島金融空母
化を中曽根と宮沢は推進した。金融列島改造である。そのために駅の土地を資本主義に投
げ込むために、国鉄を民営化しNTT株でもうけるためにNTTを民営化したのである。

 八五年からの株価グラフはニューヨーク一九二〇年代株価の模倣子となった。八九年十
二月二十九日、三万八千九百十五円を頂点に一挙に下降する。九〇年十月一日、二万二百
二十一円となり、一九九二年四月九日には、一万六千五百九十八円となった。一九二〇年
代の模倣子たる日本が死んだ日である。この資本主義の死を隠してきたのが重心なき九十
年代の浮かれた構造であろう。資本主義とは生産と破壊の反復としてある。これこそが消
費。生産様式の消費と破壊として経済戦争はあり、資本主義の前衛こそが数字である。庶
民的なバブル空間は九十年代に入ってからであった。

 日本の過去が主体的に問われはじめたのは、六〇年安保闘争の挫折と敗北からである。
革命的左翼の登場による帝国主義分析からであった。歴史的自己批判は敗戦から25年を
得て登場した。それまでの運動は日本国民が戦争の犠牲者であった、ふたたび戦争の惨禍
はもうたくさんだ、という反戦意識であった。六五年、戦争賠償金を問わない日本に都合
がいい、日韓条約に反対する学生運動から、日本帝国主義批判が登場する、そこで、侵略
戦争の主体的内省が開始されていった。そこから沖縄問題が連鎖していった。自己否定の
課題が問題意識にのぼる。

 スチューデント・パワーとしての世界的連関、九七年、中国における文化革命と紅衛兵
運動、USAにおけるベトナム反戦運動と人種差別撤廃運動の高揚、六八年・パリ五月革
命、日本における学園闘争と青年労働者による反戦運動、韓国の民主化闘争、これらが世
界的に連関していった。日本にとわれたのは七〇年に現出した出入国管理法上程をめぐる、
侵略戦争への主体的自己批判だった。自己と日本現代史への根底的批判は九八年から開始
されたのだが、日本システムは全力をあげて壊滅するのである。

 日本は民衆の時間とシステム成員たちの時間は決定的に分裂している。民衆の時間の現
実はみすぼらしい。絶望と無力と悔恨と敗北が連続が生活である。敗戦後から今日まで、
システム成員たちは民衆の時間と空間を奪い貧しくみすぼらしくすることをもって、おの
れの自己実現・欲望達成の操作可能な空間を占有してきた。おのれの思考とアイデアが実
現することは人間にとって快楽である。そうした快楽をシステム成員たちは、世界に隠れ
ながら市場・空間・情報を私有化することでもって、わがものを謳歌してきた。株食えば
金が成るなり法政治。

 同じ日本語を話ながら、システム成員たちと民衆は別人種。感受性、思考、行動様式、
生活様式は決定的に違う。民衆の物語と現実はあってはならぬものとして、その表出と歴
史的空間は殺され、機略と狡猾と言語操作とフレームアップにとんだ、システム成員たち
の列島空間は全面転回として表出する。それはさらに民衆の時間を悲劇の空間に閉じこめ
る。民衆の物語は俳句・短歌といった詩的運動に表出するが、その感受性が詩的武装にと
ぎすまれ、能動的な論理と悪魔のごとき執念で地獄から立ち上がり、システムの物語と貌
をはぎとり暴露することは困難である。

 八五年体制としてあったプラザ合意は日本を金融大国として、世界に押し上げる。関心
のまなざしが他者によって日本にそそがれる。八十年代後半からシステム成員たちの物語
は、USA・西ヨーロッパのジャーナリストたちによって表出した。日本に滞在し彼らは
システム成員たちの物語を、インタヴューと取材によって、その表層と歴史をえぐりだす
ことに成功した。システム成員が白人に対しては無防備だったからである。

 白人のジャーナリストは他者としての異邦人の感受性で、日本システムという固有な対
象を分析し思考し論理的に再構成した。日本資本主義の原点が江戸時代にあったことが分
析され、高度成長の原点たる国家資本主義の秘密が権力構造の謎として、満州国を建設し
た統制計画経済にあったことが、暴露される。システム成員たちへの実践的な取材によっ
て。日本のジャーナリストがシステム成員たちに接近しても、彼らは天皇制言語である
「和」の自己遺伝子によって、取り囲まれてしまうか、暴力装置によって排除されてしま
うだろう。システム成員たちが一番おそれているのは、日本住民である。彼らほど、帝国
内の階級構造に敏感な人間はいない。彼らは転覆こそおそれている。ゆえに自国内の批判
勢力としてある革命運動をつぶしてきたのである。転覆されれば明治近代以来の既得権と
再分配同盟が崩壊してしまう。ゆえに八十年代の日本とは場所において分裂していたのだ。
八十年年代のバブルとはレーガン・キンユウゲーム経済の破綻と失敗を救うために、図ら
れたのだが、ついに日本システムそのものを内部から自壊させた。その尖兵となったのが、
労働貴族の典型となった「連合」という陰謀集団である。権力に接近する者は、まずおの
れの出身階級を殺さなくてはならない。八十年代とはまた、壮大なゼロへの転向の季節で
あった。ゆえに個々人のイデオロギーが問われたのである。なぜならイデオロギーとは、
世界をつくる先行として人間存在の原点をめぐる実践の場所から発生するから。これが思
想である。

 世界市場の深層に生活する民衆はシステムの表層がみえない。国民国家に閉じ込められ
た民衆とはすでに、感受性・思考・知覚そのものが、だましとみせかけのウィルスによっ
て洗脳されている。国家暴力装置と対決し、存在空間がおびやかされることによって、は
じめて民衆は自分自身が人間であることを発見する。こうして実存者は生まれる。実存者
こそがシステムの表層を発見できる。

 民衆の空間は切断されバラバラにされる。敗北したものが「和」のウィルスに感染し、
模倣子に組み込まれたとき、イデオロギーの変節は完成し数字人間の群れは誕生する。数
字こそは空間のウィルスである。システムの深層は唯我となった個人を全体において統合
する。個人はいがみあう関係の破壊からくる、殺意をみせかけのシオテム上にかくす。階
級性を解体された階級の関係は不信がとってかわり、階級を利用するシステム成員たちは
みごとに団結している。マフィアのように。日本システムと徹底対決する武装せる表出者
でないかぎり民衆は他者をとおしてシステムの表層をかろうじて発見できるのである。

 ソ連軍をたくみに峡谷におびきよせ、ゲリラ戦によって世界史に登場した一九五二年生
まれのアフガニスタンの指導者マスード司令官は、徹底して毛沢東からフランス・レジス
タンスまで世界の戦略戦術書を学習し、アフガニスタンに実践適用したという。彼は他者
を通してこの地がおのれの主体的実践の場であるアフガニスタンの表層を発見したのであ
る。

 中東湾岸戦争でイラクのフセインは神においのりするばかりであった。そこにはもはや
表層をみる力はない。神学の深層がなにか神秘的な力に満ちており奇跡をよびおこし、や
がて勝利するのだという幻想は戦争の前にふきとぶ。戦争の表層と神学の深層は人間の内
部において再構成され再現実される。それぞれが異相の動物的本能であることに気づかぬ
者は交通関係において勝利できない。なぜなら戦争を含めて交通関係とは他者との関係。
人間関係が恐ろしい出来事を表出するがゆえに、われわれは他者から学ぶのである。神学
の深層に逃げこんでも交通関係は何ら解決しない。ゲリラ戦は表層としての空間を問題に
するがゆえに、他者から(それは敵もふくむ)徹底的に学ぶのである。イスラムの神を信
仰するがパレスチナ・ゲリラもアフガン・ゲリラも世界の他者としての表層から学び表出
することによって今日までたたかいぬいてきた。

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田村 泰次郎, 秦 昌弘, 尾西 康充
田村泰次郎選集 (5)
鶴見 俊輔, 鈴木 正, いいだ もも
転向再論
思想の科学研究会
転向〈上〉―共同研究 (1978年)
思想の科学研究会
転向〈下巻〉―共同研究 (1962年)
思想の科学研究会
転向〈中巻〉―共同研究 (1960年)
吉本 隆明
わが「転向」
植和田 光晴
R.M.リルケ 言語的転向の軌跡―作品と書簡にたどる
中野 重治, 大岡 昇平, 佐々木 基一, 埴谷 雄高, 花田 清輝, 平野 謙
革命と転向
宮岸 泰治
転向とドラマトゥルギー―一九三〇年代の劇作家たち
藤田 省三
転向の思想史的研究―その一側面 (1975年)
藤田 省三
転向の思想史的研究
長谷川 啓
「転向」の明暗―「昭和十年前後」の文学
井上 清
井上清史論集〈3〉日本の軍国主義
高橋 勝之
あばかれた秘密―国際帝国主義の謀略 (1961年)
鎌倉 孝夫
経済危機・その根源―現代金融帝国主義
工藤 晃
現代帝国主義研究
後藤 道夫, 伊藤 正直, 渡辺 治
現代帝国主義と世界秩序の再編
渡辺 治
現代日本の帝国主義化―形成と構造
荒巻 義雄
帝国の光〈2〉東京帝国主義
中西 新太郎, 鷲谷 徹, 木下 武男, 乾 彰夫, 渡辺 治, 後藤 道夫
日本社会の再編成と矛盾
渡辺 治, 二宮 厚美, 木下 武男, 中西 新太郎, 進藤 兵, 後藤 道夫, 乾 彰夫, 安田 浩
日本社会の対抗と構想
後藤 道夫, 山科 三郎
ナショナリズムと戦争
D.R. ヘッドリク, Daniel R. Headrick, 原田 勝正, 老川 慶喜, 多田 博一, 浜 文章
進歩の触手―帝国主義時代の技術移転
大内 信也
帝国主義日本にNOと言った軍人 水野広徳
柳沢 遊, 岡部 牧夫
帝国主義と植民地
黒瀬 郁二
東洋拓殖会社―日本帝国主義とアジア太平洋
堀 和生, 中村 哲
日本資本主義と朝鮮・台湾―帝国主義下の経済変動
武田 晴人
帝国主義と民本主義
大西 広
グローバリゼーションから軍事的帝国主義へ―アメリカの衰退と資本主義世界のゆくえ
マイケル ハドソン, Michael Hudson, 広津 倫子
超帝国主義国家アメリカの内幕
デヴィッド ハーヴェイ, David Harvey, 本橋 哲也
ニュー・インペリアリズム
マイケル マン, Michael Mann, 岡本 至
論理なき帝国
ジョン K.クーリー, 平山 健太郎
非聖戦―CIAに育てられた反ソ連ゲリラはいかにしてアメリカに牙をむいたか
山元 大輔
行動を操る遺伝子たち―本能と学習の接点をさぐる
山元 大輔
本能の分子遺伝学
W.C. マクグルー, W.C. McGrew, 森 重敏, 金村 美千子, 藤田 主一
幼児の行動とその理解―ヒト以外の霊長類の動物の子と比べた園児の行動学的研究

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