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2006年11月26日 (日)

小説 新昆類 (17) 【第1回日経小説大賞第1次予選落選】

 わたしはなぜ六〇年の類似を、一九九二年の十一月に気づかなかったのだろう。ケネデ
ィが大統領に当選した六〇年十一月、世界はキューバ革命に代表されるごとく、中国革命
からアジア・アフリカ諸国の独立の嵐だった。八九年革命も冷戦という四十五年間にわた
る世界大戦を終焉させ、独立国をソビエト連邦から誕生させた。帝国主義としてあったソ
ビエト連邦はアフガニスタン侵略戦争の泥沼を背負い自壊する、もう一方の帝国主義とし
てあったUSAは、長期冷戦大戦の終結をみすえ、地域覇権として登場するイラクを世界
へのみせしめとして各個撃破したのである。

 九一年一月、湾岸戦争に衝撃を受けたわたしは、九二年まで判断停止・思考停止という
自失と絶望にあった。現状を理解するためには過去の類似をみよ、という思想の原点に無
知だったのである。なによりも思想とは個人による作業であり、過去との対話であること
に勇気をもって踏み出すことができなかった。高度経済成長価値観によって教育されたわ
たしは、世界の変化を理解することができなかったふるいタイプの人間であった。おしよ
せる天皇結婚式祝祭と圧倒的な日本回帰に思想として反発し、七十年代以来の日本批判精
神の一点を死守することに精一杯だった。

 高度経済成長をなしとげた日本イデオロギーあるいは日本哲学は「商」の自己遺伝子で
あり模倣子である。それは十七世紀西ヨーロッパによって形成された世界システムと世界
市場から身をかくすことによって自然生成した。徳川幕藩体制三百年間にわたり「商」の
哲学は熟成した。支配階級としての武士は藩を持ち暴力武装を私有化する官僚であり、
「商」は士農工商の最低身分制度に甘んじて、権威にすりよることによって生き延び財を
構築したのである。都市の市場と群れに目立たず埋もれ、したたかに狡猾に「商」の自己
遺伝子は進化し模倣子は拡張していく。

 三井・住友・三菱といった明治近代に表出する国家資本主義を体現する独占系列機関、
その数字人間たちの背骨と哲学、徳川幕藩体制の場所に蓄積されてきた実践的イデオロギ
ーにこそ日本資本主義の強さが内包し存在すると言われてきた。七十年代においては経団
連システム設定者たち大企業の社長とか社長たちは、住宅街につつしみふかく生活してき
た。八十年代にふってわいたボウフラとは自己遺伝子の質が違うのである。

 日本資本の数字人間の実践的イデオロギーと組織戦略指導主体は、個人において質を放
出する西ヨーロッパやUSAアングロサクソン的あるいはプロテスタンシティズムな資本
の明確な身分差、階級的な富のイデオロギーとは違っていたかにみえた。法人資本主義の
個を捨て組織のノルマ数字達成に生きる集団的数字闘争による場の独占をめざす拡張主義
の日本的経営は西洋(EC、USA)の経営者たちをおびやかしてきた。世界市場から身
をかくすことによって、三百年間という子宮によって形成された日本主義の自己遺伝子
は世界市場のウィルスとして、EC・USA・アジアから知覚される。

 人は己の肉体をむしばむウィルスが発見されれば、己の肉体と空間からウィルスを排除
し、ウィルスとの戦争を開始するのは必然。こうして特許戦争USA独占禁止法の日本適
用、規格戦争は表出する。

 経団連のシステム設定者たちは、それが己の会社でないかぎり、法人資本主義の組織か
ら離れると、個人として富はのこらない。富はどこまでも企業体としての法人資本主義組
織に保持されなければならない。しかし日本システム設定者たちはシナリオを操作してき
た者・富のネットワークを形成する族であることにかわりはない。日本が世界の金持ち国
家として世界に表出した八十年代、とくに円高ドル安の八五年プラザ合意移行、バブル形
成によって、持たざる者と持てる者との階層は明確に分裂した。

 こうして日本システムはUSA金融ネットワークを中核とする世界システムによって、
おだてられ、うまくのせられ、八五年移行のバブルを形成するのである。特徴的にはイギ
リス・サッチャー、USA・レーガン、日本・中曽根がおしすすめた国家政治経済体制が
ある。いわゆる金への貪欲、裕福な人々が自分の所有する富を自分だけのために拡張せん
と疾走する病気である。こうして社会性が喪失し、人々は金銭第一主義となり「金食えば
金が成るなりお札かな」の成金となった。

 中曽根がやったことは八五年体制と称して、社会の壊滅である。陰謀集団とくんで、成
田空港のゼネコン大規模工事、国鉄民営化分割によるバブル土地の発生、NTT民営化に
よる株投機へのあおり、すべて成金主義の土壌はサッチャー経済とレーガノミクスを模倣
した中曽根によって自然生成した。資本主義そのものをかれらは国家によって破壊した。
成金主義の日本と正義の人々との闘争こそ八十年代にほかならない。まさに機軸をめぐる
内戦であったのである。八十年代におけるゲリラ・パルチザン戦の炸裂はそれを物語るだ
ろう。しかし多くの人々は株をもち、土地を持つ成金主義へと転向していった。金こそが
成功であると。ゆえに八十年代とは壮絶なイデオロギー戦争であった。価値観と人間の死
生観をめぐる機軸転回であったが、多くの国民は金と成功を選択した。国家と結託し国民
は社会の破壊をおのれの自由意思で選択したことを、わすれてはならないだろう。八七年
多くの国鉄労働者が自殺をとげた。九十年代の日本とは死者たちを愚弄し汚辱した上に成
立したシステムであった。その社会はやがて復讐の女神によって覆されるだろう。

 日本資本主義の自己遺伝子は徳川幕藩体制以来、進化し上昇してきた数字の臨界点に世
界システムによって押し上げられ、世界市場のウィルスとして変貌をとげる。第二次世界
大戦による敗戦、形式としてのUSAから外部注入されたアングロサクソン型市場経済と
平等主義、公平なルールにもとづく数の闘争としての民主主義。日本システムにとってこ
うした連合軍による構造改革は世界市場への絶好の機会をあたえた。資本主義がより発展
するためには、明治近代に形成された天皇家を頂点とした地主制度は世界市場に通用する
ことがない桎梏なシステムだった。

 フィリピン経済がいまなおテイクオフできないのは、多国籍企業による支配が原因であ
るが、主体的要素は強力な地主制度にある。八六年の民主主義革命として表出した地主階
級のアキノ政権でもっとしても土地革命はいまだにやりとげることができなかった。土地
を地主から農民のものとする土地革命は、ロシア革命、中国革命、キューバ革命を例にあ
げても革命そのものとしてなしとげられる。日本システムは己が血を流すことなくUSA
にシステムの書き換えを代行させたのである。こうして日本イデオロギーあるいは日本哲
学の「商」の自己遺伝子は、本来のエネルギーを具現する実践的空間をわがものとした。
世界市場への再起動は目の前にあった。

 機略と狡猾にとんだ日本イデオロギーの自己遺伝子は、将軍家と武士天皇家と軍人、U
SAと日本官僚にそのつど権威の対象をすりかえながら他者と自己をだましだまされなが
ら変貌をとげる。明治近代成立以降、日清戦争・日露戦争の勝利によって、おのれを一等
国民として放漫に朝鮮半島から中国大陸へ侵略し、満州国を世界をだましながらつくりあ
げ、フィリピンから東南アジアへと拡張欲望を表出し、他者の空間を踏み荒らした土足の
血液主義は自然発生的な臣民の爆発的エネルギ-。それが敗北するや否や、臣民から国民
への平等主義をUSA軍という解放軍からもらいうけ、本来の姿にもどれる幸福を手にす
る。日本国民にとってUSA軍はまぎれもなく天皇軍国から自由にしてくれた解放軍であ
った。その神話が労働運動史上、初めてであり終わりであった日本労働者階級のゼネスト
を自壊させるにいたる。

 大日本帝国最後の天皇による政令が外国人登録法であった。こうして日本システム成員
たちはまず、強制労働にあった在日朝鮮人・中国人労働者の反乱をおさえると同時に、今
度はUSA軍を利用し、日本労働者階級の反乱をつぶすことに成功したのである。レッド
パージ政策と重なるように戦争犯罪者たちは日本システムネットワークに復帰する。その
とき、臣民の圧倒的多数者はUSA軍による占領の幸福をかみしめ酔いしれて、生活のエ
ネルギーにばく進していたに違いない。朝鮮戦争は隣国の地では残酷に血を流し人々を引
き離す悲しみに満ちた光景であったが、日本は経済復興による明るいエネルギーと興奮だ
ったのである。

 自由と経済復興の明るさの前では、おのれが犯した侵略戦争と殺人犯罪を告白する理由
はない。暗いものは隠し通さねばならぬ。過去にこだわる者は乗り遅れてしまう。大日本
帝国の敗北と侵略戦争の罪はすべてかつての軍隊の上層部にあるとする国民的合意が強力
に形成され、とどのつまり、天皇とわれわれ国民は軍部にだまされていたのだと、罪の意
識といまいましい過去から解放され、「商」の自己遺伝子をおのれの模倣子とする。成長
神話はこうして軍事組織から経済組織へと転回する。この変貌こそが原光景である。

 ヒロシマ・ナガサキの実態をUSA軍とともに隠そうとしたシステム成員たちは大日本
帝国の敗北を総括し自己改造したとはいえない。自己改革とは主体がまたはシステムを構
成する人間が血を流すということである。すべて軍部の責任とした日本システム成員たち
は、プロシア型国家資本主義から、アングロサクソン・USA型資本主義にのりかえたに
過ぎなかった。日本経済自己遺伝子はUSA型資本主義にのろかえたに過ぎなかった。ア
メリカ産業の品質管理、技術、ビジネス、思考方法をエネルギッシュに学習し、模倣子は
アメリカをめざしていく。こうして日本システムその組織が事実として戦略が根底から敗
北したのだという、戦争産業総力戦組織は突きつめて総括されることなく、大日本帝国の
時代はノスタルジアの氾濫として、ロマン主義に回収されてきた。これが日本イデオロギ
ーの本性である。イタリア・ドイツとの格差がここにある。




【第1回日本経済新聞小説大賞(2006年度)第1次予選落選】

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藤広 哲也
そこからパソコンがはじまった!―栄光と激動のコンピュータ1980年代史
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日本のオーディオ高度成長期を飾ったオーディオ・クラシックモデル1970~1980年代
赤塚 不二夫
1980年代 オンデマンド版 [コミック]
樺山 紘一
岩波講座 世界歴史〈27〉ポスト冷戦から21世紀へ―1980年代
モーストアンドモア
IBM1970年代の総括 (1980年)
志村 幸雄
IC産業最前線―日米決戦・現場からの報告 (1980年)
内藤 二郎
中国の政府間財政関係の実態と対応―1980~90年代の総括
山岸 章
「連立政権時代」を斬る
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逆プラザ合意―日本の経済問題の深層を理解し、解決に向かうための道筋
近藤 健彦
プラザ合意の研究
NHK取材班
NHKスペシャル 戦後50年その時日本は〈第6巻〉プラザ合意 アジアが見つめた“奇跡の大国”
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風都市伝説―1970年代の街とロックの記憶から
ジェイムズ・ジュニア ティプトリー, アーシュラ・K. ル・グィン, 中村 融, 山岸 真, James,Jr. Tiptree, Ursula K. Le Guin
20世紀SF〈4〉1970年代―接続された女
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高橋悠治|コレクション1970年代
あがた 有為, 吉田 比糸
官能劇画大全書―1970年代~80年代ハードコア・エロ劇画アンソロジー
前澤 猛
表現の自由が呼吸していた時代―1970年代読売新聞の論説
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1970年代(1) オンデマンド版 [コミック]
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明日への葬列―60年代反権力闘争に斃れた10人の遺志 (1970年)
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H.ゲオルグ ベーア, Hans‐Georg Behr, 金森 誠也
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神聖ローマ帝国 1495‐1806
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体内兇器
F.ポール ウィルスン, F.Paul Wilson, 大瀧 啓裕
異界への扉
C.L. ウィリス, M. ウィルス, Christine L. Willis, Martin Wills, 富岡 清
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リスボンの小さな死〈上〉
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虚飾の果てに

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